プロフィール
滝澤 隆宰(たきざわ りゅうさい)
東北大学産学連携機構 特任助教(運営)。
修士(経営学)、公共法政策修士(専門職)。自治体職員として県庁、病院、大学で勤務した後、現職。大学院では組織行動を学び、「従業員の沈黙」と、それに関わる権力や組織文化について研究。現在の関心領域は、働き方、業務改善、従業員サーベイ、公共組織のマネジメントなど。
実務と研究の両方から、組織の中で起きる「なぜ」を考えています。
会議で疑問を感じたのに、発言しなかった。
リスクに気づいていたのに、共有しなかった。
改善できると思ったのに、提案しなかった。
でも、そのときには、そのときなりの事情があります。
上司の反応が怖かったのかもしれない。
言っても変わらないと思ったのかもしれない。
周囲との関係を悪くしたくなかったのかもしれない。
外から見れば、どれも同じ「言わなかった」という行動です。
でも、その裏側にある理由まで同じとは限りません。
こうした直接見ることのできない違いを捉える方法の一つが、因子分析です。
1.因子分析とは
因子分析は、複数の質問への回答から、その背後にある共通した要因を考える方法です。
たとえば、
「困ったときに上司に相談できる」
「上司は自分の意見を聞いてくれる」
「上司から必要な支援を受けられる」
「自分の仕事の進め方を自分で決められる」
「新しいやり方を試すことができる」
「自分なりの工夫を仕事に反映できる」
といった、さまざまな質問に答えてもらったとします。
一つひとつは別の質問ですが、回答のパターンを見ていくと、上司への相談や支援に関する質問には似た動きがあり、仕事の進め方や工夫に関する質問にも別のまとまりが見られるかもしれません。
そこで、その背後に「上司との関係」「仕事の自律性」 といった、直接には見ることのできない共通の要因があるのではないか、と考えます。
実際に回答してもらう質問を観測変数、その背後にある直接には観測できない概念を潜在変数(因子)と呼びます。
単純化すれば、
質問への回答 = 共通する因子の影響 + その項目に固有の影響
と考えることができます。
図1のように、表面上はばらばらに見える質問でも、回答同士の関係を手掛かりにすると、その背後にいくつかの共通したまとまりが見えてくることがあります。

2.因子分析では、何を見ているのか
まず見るのは、質問同士の相関です。似た動きをする質問があれば、その背後に共通因子があるのではないかと考えます。
次に、その質問が因子とどれくらい強く結びつくかを示すのが因子負荷量です。ある質問だけ結びつきが弱ければ、「この質問は本当にその概念を測っているのか」と考える必要があります。

因子分析には、大きく二つのアプローチがあります。
データから因子構造を探る探索的因子分析(EFA)と、理論や先行研究から想定した構造がデータにも当てはまるかを確かめる確認的因子分析(CFA)です。
大事なのは、統計ソフトが因子の意味まで教えてくれるわけではないことです。データのまとまりを、理論と照らし合わせながら解釈するのは人です。
理論で考え、データで確かめ、また理論に戻って考える。
この往復に、因子分析の面白さがあるのかもしれません。

3.研究例 -従業員の沈黙-
私が大学院で研究したテーマは、従業員の沈黙(Employee Silence)でした。
従業員の沈黙は、仕事に関するアイデアや問題についての情報、意見などを持ちながら、それを表明することを差し控えることです(Morrison, 2014)。
先行研究の一つでは、沈黙の動機を4つに分けています(Knoll & van Dick, 2013)。

出典:Knoll & van Dick (2013)を基に筆者作成
そこで、これら4つの動機が実際に別々の因子として捉えられるか、確認的因子分析を行いました。ところが、「本来だったらしなくてよい仕事が増えると思う」という項目だけは、想定した因子とうまく結びつきませんでした。
一方、同じ機会主義的沈黙の「自分の有利な知識を見せたくない」「自分のアイデアに他人がただ乗りすることを懸念する」は残りました。
ここで、疑問が生まれます。
「仕事を増やしたくない」と「知識やアイデアを他人に渡したくない」は、本当に同じ種類の『機会主義』なのだろうか。
そして、うまく当てはまらなかった理由は一つとは限りません。
質問文の表現かもしれない。
翻訳によるニュアンスの違いかもしれない。
海外と日本の職場で受け取られ方が違うかもしれない。
あるいは、そもそもの理論や概念の切り分け方に見直す余地があるのかもしれない。
因子分析では、こうしてデータから「想定どおりではない」結果が返ってくることがあります。項目を外せば、モデルはきれいになるかもしれません。けれど、その分、もともと捉えようとしていた概念の一部を落としてしまう可能性もあります。
数字を整えることと、現象を豊かに捉えることは、必ずしも同じではない。そのズレから何を考えるか。そこにも分析の意味があるように思います。
4.因子分析はHRに何をもたらすか
HRで扱うものの多くは、直接見ることができません。
エンゲージメント。
心理的安全性。
組織文化。
従業員の沈黙。
身長や年齢のように、そのまま数字で測れるものではありません。
だから、複数の質問を通じて、その背後にあるものを捉えようとします。
ここで因子分析が役に立ちます。
たとえば、従業員サーベイから「言いたいことを言えていない人が多い」ことが分かったとします。「1on1を増やそう」「心理的安全性を高めよう」というのが施策の候補として思い浮かぶと思います。
でも、第3章で見たように、同じ「言わない」でも、怖れによる沈黙と、「言っても無駄だ」という諦めによる沈黙では意味が違います。
怖れが背景にあるなら、心理的安全性への働きかけが必要かもしれません。
一方、「言っても無駄だ」という諦めなら、意見が実際に検討され、その結果が共有される経験の方が重要かもしれません。
逆に、別々に見える問題の背後に、同じ要因が隠れていることもあります。
たとえば、「給与の決まり方が分からない」「人事評価の基準が明確でない」「上司の判断理由が十分に説明されない」といった回答がまとまって動いていたとします。一見すると、給与、評価、上司という別々の問題ですが、その背後には、「判断の基準や情報が十分に共有されていない」という共通した問題があるのかもしれません。
一つに見える問題を、少し解像度を上げて分解する。
あるいは、別々に見える問題の共通点を探す。
これが、因子分析がHR施策に貢献できることの一つだと思います。
問題をより具体的に捉えられれば、施策も現場に合わせやすくなります。そして、「なぜこの施策なのか」を事業部に説明する材料にもなります。
もう一つは、従業員サーベイで作った「スコア」が、本当に意味のあるものかを確かめられることです。複数の質問をまとめて平均すれば、スコア自体は作れます。でも、その質問群が本当に一つの共通した概念を表しているとは限りません。
因子分析を使うことで、
「この質問群は、私たちが測りたい概念を本当に捉えているのか」
を確かめることができます。
第3章のように、一つだけ違う動きをする質問があれば、質問そのものや、測ろうとしている概念を見直すきっかけにもなります。
他社で使われている質問だからといって、自分たちの組織でも同じものを捉えられるとは限りません。自分たちは何を捉えたいのか。それを本当に測れているのか。そのうえで、結果をどう解釈し、どんな施策につなげるのかを考える必要があります。
もちろん、因子分析が施策そのものを決めてくれるわけではありません。分析で得た仮説を現場との対話で確かめ、施策の設計や実行につなげていくことが必要です。
それでも、数字からすぐ施策に飛ぶ前に、
「この数字は何を表しているのだろう」
と考えるための道具にはなります。
AIが分析を助けてくれる時代だからこそ、重要になるのは、何を測り、どう解釈し、どう施策につなげるかを考えることなのかもしれません。
5.まとめ -「言わない」の裏側を見る-
誰かが黙っていると、「意見がないのだろう」「納得しているのだろう」と、その理由を自分の知識や経験の範囲で想像してしまいがちです。
でも、本当のところは分かりません。
同じ「言わない」という行動でも、その裏側には違う理由がある。
因子分析は、そうした直接には見ることのできない違いを、複数の回答のパターンから捉えようとする方法です。
大事なのは、因子やスコアを出して終わらないことです。
「私たちは何を測っているのか」
「なぜ、この結果になったのか」
と、もう一度問い直すこと。
そして、見えている数字を、そのまま答えにしない。
その数字の向こう側に何があるのかを考える。
それが、HRで因子分析を使う意味の一つかもしれません。
※本稿の内容は筆者個人の見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。
参考文献
南風原朝和(2002)『心理統計学の基礎―統合的理解のために』有斐閣
Knoll, M., & van Dick, R. (2013). Do I hear the whistle…? A first attempt to measure four forms of employee silence and their correlates. Journal of Business Ethics, 113(2), 349–362.
Morrison, E. W. (2014). Employee voice and silence. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1, 173–197.
