
ダイナミックcomputational model
1. 研究者紹介
三上佳祐(Keisuke Mikami)
オハイオ大学(Ohio University)博士後期課程(産業・組織心理学)
一般社団法人HR Buddy研究所

2. 序文(背景)
組織における究極的な目標は,多くの場合,利益を生み出し続けることであり,その意味で個人,チーム,組織におけるパフォーマンスは重要なエンドアウトカムとなります。
そのため,産業・組織心理学においてはパフォーマンスを予測する変数に関する研究が多く行われてきました。顕著な例がモチベーション研究です。モチベーション自体は,目標の選択(方向性:direction),目標達成に向けた努力(強度:intensity)そして目標追求に投資する時間(持続性:persistence)という3つの側面から定義されますが(例えば,Diefendorff & Chandler, 2011),多くの研究ではモチベーションやパフォーマンスに影響するモチベーション要因が研究されてきました。
しかしながら,研究における問題点として,モチベーション要因→パフォーマンスという1方向的な因果関係がしばしば想定されることがあります。すなわち,パフォーマンスが持ち得る役割を正確に捉えることができておらず,結果的に因果関係について誤った解釈を導く可能性があるのです。本記事では,Mikami and Vancouver (2025)の発表に基づき,有能感と自律性という2つのモチベーション概念とパフォーマンスの関連についてダイナミックな視点から考察します。
3. 研究内容
多くの理論では,有能感と自律性がパフォーマンスの原因であると考えますが,因果関係が反対の可能性,また双方向の可能性もあります。以下,3つの潜在的なモデルについて簡単に述べます。
3.1有能感,自律性→パフォーマンス
有能感あるいは類似の概念としての達成動機はモチベーション研究において古くから研究されており(McClelland et al., 1953),自律性も複数の研究者によって研究されてきました(deCharms, 1968; Hackman & Oldham, 1975)。
また,自己決定理論(Deci et al., 2017; Deci & Ryan, 1985; Ryan & Deci, 2000)ではこれら有能感と自律性に関係性を加えた3つが,人間に普遍的に備わる欲求であり,モチベーションやパフォーマンスを高めると主張されます。
メタ分析から,これらの3つはパフォーマンス,離職,ウェルビーイング等と関連することが示されています(Cerasoli et al., 2016; Ryan et al., 2022; Van den Broeck et al., 2016)。しかしながら,特に自律性に関しては,本当にモチベーション要因としてパフォーマンスを高めるのか懐疑的な見方も存在します(例えば,Locke & Latham, 1990)。
実際,自己決定理論に関する実証研究を精査すると,自律性とパフォーマンスの因果関係についてのエビデンスは頑健とは言えません。字数の都合上詳細は割愛しますが,主な問題としては(1)横断研究が多いこと,また(2)縦断研究や実験研究においてはデザインや操作に問題が見られることが挙げられます。
3.2 パフォーマンス→有能感,自律性
観察的な研究(実験以外の研究)は根本的には共分散(相関)をとらえているだけに過ぎないため,反対の因果関係も当然成立し得ます。そのような場合,理論的な解釈の妥当性が重要となります。
例えば,有能感に関して,仕事ができないから有能感が低いと考えることは妥当な解釈だと思われます。一方,自律性に関してはやや間接的になりますが,例えば,leader-member exchange(LMX)理論によると,リーダー(上司)は各部下との間に異なる相互的な関係性を構築し,質の高い関係は信頼や尊重などに特徴づけられます(Graen & Uhl-Bien, 1995; Liden & Maslyn, 1998)。
そして,LMXを予測する1つの要因が部下のパフォーマンスです(Bauer & Green, 1996; Nahrgang et al., 2009)。つまり,部下のパフォーマンスが高いとき,上司は部下を信頼し,結果的に自律性を与えると想定できます。
このように,パフォーマンスが有能感と自律性に影響を及ぼすという考え方は極めて理に適っていると言えます。したがって,自己決定理論の主張とは反対に,パフォーマンスが有能感と自律性の原因であるという見方は十分に成立します。
3.3 パフォーマンス⇄有能感,自律性
別の可能性は双方向的な因果です。すなわち,パフォーマンスが有能感と自律性に影響し,さらに有能感と自律性がパフォーマンスに影響するというフィードバックループを想定したモデルです。このようなダイナミックな視点は,未だ多くの心理学理論において欠けています。
恐らく主な理由は実証研究における難しさがあります。研究では実験,調査,インタビューを用いてデータを収集し,分析を行います。例えば,変数X→変数Yの因果関係を検証する場合,変数Xを実験的に操作した上で回帰分析を行います(もちろん,実際の研究ではより複雑な統計モデルを用いることが多いです)。
ここで問題となるのは,適切な操作,測定,分析ができない現象は実証的に研究できないという点です。特にフィードバックループを実証的に捉えることは非常に難しいという問題があります(縦断調査によって再帰的な分析を行う研究はありますが,多くの場合問題が見られます)。
つまり,統計分析の限界が理論を制限してしまうということです。このような統計の限界を踏まえて,近年はcomputational modelingを用いたシミュレーション研究によって,ダイナミックな現象を説明する理論を提唱する研究が徐々に増えています(例えば,Shoss & Vancouver, 2024; Vancouver et al., 2010 )。
3.4 本研究の目的
本研究の目的は,有能感,自律性,パフォーマンスの関連について,逆因果の可能性,及びダイナミックな視座を踏まえた双方向的因果の可能性をシミュレーション研究により検討することです。具体的には,2つのモデルの論理的一貫性と実証知見に沿う妥当性を検証します。
3.5研究方法と結果
Figure 1に本研究におけるモデル,Table 1に各変数の数式を示します。シミュレーションでは,鍵となる変数の動きを観測しました(ある組織成員における入社から100日間の時間枠)。
はじめに,パフォーマンスから有能感と自律性への影響のみを想定したモデル(逆因果モデル)の妥当性を検討し,続いて,フィードバックループを加えたダイナミックモデルの妥当性を検証しました。両モデルにおいて,実証研究における結果(自律性とパフォーマンス,また有能感とパフォーマンスの正の関連)を生み出すことを目的としています。


逆因果モデルでは,有能感からモチベーションへの影響を取り除くことで(PERCEIVED COMPETENCE→motivationのパスを切る),パフォーマンスから有能感と自律性への影響のみを検証しました。
特に,パフォーマンスが高い場合と低い場合の自律性の動きを観測するため,能力の値を操作しました。Figure2に示すとおり,能力が低いとき自律性(青線)は徐々に低下していきます。反対に,能力が高いときには,自律性(赤線)は最初低下しますが次第に増加し始め,最終的にはパフォーマンスレベルに近づきます。
この結果から,メタ分析で示されている自律性とパフォーマンスの正の関連は,パフォーマンスを原因としたモデルでも成立することが分かります。

続いて,有能感からモチベーションへのパスを含んだダイナミックモデルのシミュレーション結果をFigure3に示します。予測したとおり,全ての変数が時間とともに上昇する傾向が見られ,漸近線が描かれています。

4. 実務適用
本研究から,逆因果モデルとダイナミックモデルの妥当性が確認できましたが,両モデルに共通する点はパフォーマンスが鍵となるということです。本研究は,理論や方法論といったより学術的な貢献を目指した研究ですが,実践的な示唆も僅かながらあると考えます。以下に,実践に関連するかもしれない視点を記します。
4.1 パフォーマンスフィードバックループ(ダイナミックな視点)の重要性
パフォーマンスを単にエンドアウトカムとして捉える見方はダイナミックな視点に欠けており,大きな誤りであると言わざるを得ません。このことは実践でも重要な示唆を与えます。例えば,職場には他者よりもはるかに多くの生産性を生み出すスターパフォーマーと呼ばれる組織成員がいると考える研究者もいますが,別の考え方として,他者よりもスタートの時点で少しだけ仕事ができる人は多くのリソースを与えられることで,長期的な結果としてスターパフォーマーという現象が見られることもあり得ます(Vancouver et al., 2016)。
この場合,組織におけるリソース配分の在り方が重要な介入ポイントとなります。このように,パフォーマンスは人,行動,環境に影響を与える重要な変数です。この視点を踏まえなければ,現象全体を適切に捉えることはできす,実践においては適切な介入ポイントを見逃すことになりかねません。
4.2 自律性の実践的意義
本研究のダイナミックモデルにおいては,自律性の効果を否定はしないものの,より重要な変数はパフォーマンスやそれに基づく有能感であることが見て取れます。Cerasoli et al.(2016)のメタ分析では自律性とパフォーマンスの関連(ρ)は.28ですが,ダイナミックモデルが正しければ,この効果は自律性とパフォーマンスの双方向の関連の合算ということになります。
すなわち,自律性からパフォーマンスへの効果自体はより小さいと想定でき,モチベーション要因としての自律性の実践的意義に疑問が生じます。加えて,多くの職場では組織成員に対して外的な目標が与えられることから,自律性の実践的意義については疑問が持たれてきました(Locke & Latham, 1990)。
また,例えば自己調整学習の研究では,自律性(control)は学習を促進しないどころか,場合によっては負の影響を与えることも示されています(Niemiec et al., 1996)。
これらを踏まえると,自己決定理論における自律性を高めれば良いという考え方は,組織における実践的意義としては乏しいと言わざるを得ないでしょう。むしろ,トレーニングを通して知識やスキルを磨くことでパフォーマンスを高めることの方がはるかに重要と考えられます。しかしながら,自律性が無駄だとは限りません。重要なことは,自律性という概念をマネージメントの視点からいかに活用できるのかを改めて検討し直すことではないでしょうか。
本研究からは,パフォーマンスが鍵であることが示されました。したがって,パフォーマンスレベルを踏まえた上で,自律性の効用が最大化するのはいつ,どのような場面なのかを検討することが自律性の実践的意義を見出す上で必要となると考えられます。
4.3 因果関係を論理的に考えること
心理学は人間の行動を説明する理論(因果関係)を構築することを目指す学問ですが,因果関係の確立は極めて難しい問題です。理由としては,因果関係自体が多くの場合複雑であること,そして方法論的な難しさがあります。やや個人的な話になりますが本研究の着想点は自律性がパフォーマンスを高めるという説明が必ずしも論理的でなく,むしろ反対の説明の方がより論理的なのではないかと考えたことにあります。
人間行動の多くは両方向の因果が潜在的に想定できる場合が多いと考えられます(例えば,いつも笑顔だから友達が多い,反対に,友達が多いからいつも笑顔でいる等)。しかしながら,多くの研究では,一方向的な因果のみが検討されることや不十分な方法論が使用されることで,真の因果関係が十分に検討されていないことは多くあり得ます。
因果関係の確立は研究者の仕事ですが,実践家においても,潜在的に誤りのある研究知見を鵜呑みにするのではなく,因果関係について論理的に考えることが,関心のある問題についてより適切な解を導くために重要と言えるのではないでしょうか。
5. 結論
組織はパフォーマンスのようなアウトカムを高めるためにどうすればよいのかを考えます。すなわち,因果関係こそが最も重要な関心事であると言っても過言ではありません。そして,パフォーマンスフィードバックループのようなダイナミズムが重要な役割を果たしていることは様々な現象において考えられます。
従来の心理学理論や研究におけるX→Yというスタティックな視点は誤った現象の理解を導く可能性があり,その結果組織は最適ではない(また時に有害な)決断を下すかもしれません。そのような事態を避け,真に有効な実践を導くためにも因果関係の理解は極めて重要であり,その際ダイナミックな視点は有益な示唆を与えてくれると言えるでしょう。
6. 引用文献
Cerasoli, C. P., Nicklin, J. M., & Nassrelgrgawi, A. S. (2016). Performance, incentives, and needs for autonomy, competence, and relatedness: A meta-analysis. Motivation and Emotion, 40(6), 781–813. https://doi.org/10.1007/s11031-016-9578-2
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