“この会社、自分に合うかも”の正体──離職を防ぎ、組織コミットメントを高める個人-組織適合という視点(主任研究員:宮川 祥子さん)


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1.研究者紹介

宮川 祥子 (Miyagawa Shoko)
一般社団法人HR Buddy研究所 主任研究員
お茶の水女子大学大学院 博士後期課程

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修士(学術)。専門は産業・組織心理学。
「この組織、なんとなく自分に合うな」という感覚が
どのように形成されるか、またどのように測定できるかを
明らかにするために「個人–組織適合」をキーワードに研究。

2. 序文(背景)

 採用難が続く現在、組織コミットメントの維持と離職抑止は人事部門の最優先テーマと言っても過言ではありません。リクルートワークス研究所 (2025) の中途採用実態調査によると、2024年度上半期に必要な人材を確保できなかった企業は57.8%と半数以上を占めており、今現在社内にいる人材を大切にし、生き生きと働き続けてもらう必要性がますます高まっています。

 こうした組織コミットメントや離職といった職務態度変数と関連する概念として、「個人ー組織適合(Person-Organization Fit)」があります。個人ー組織適合は、『①個人と組織の両者が同様の基本的特性を共有する ②少なくとも一方が他方の必要とするものを提供する ③あるいはその両方』によって定義される概念であり (Kristof 1996)、海外ではメジャーな研究テーマとなっています。人的資本管理研究の文脈では、採用時の定着を予測する要因として、ウェルビーイング研究の文脈では、働く上での満足度やウェルビーイングを予測する要因として研究がなされてきました。

 海外で実施された複数のメタ分析(複数の実証的知見を定量的にまとめた研究)において、適合の高さと離職の低さやコミットメント・エンゲージメントの高さに一貫した関連があることが分かっているものの (Verquer, Beehr, and Wagner 2003; Oh et al. 2014)、日本においては実際に職務態度変数と関連するかといった検証は十分にありませんでした。そこで本記事では、「宮川・伊藤(2023)」の調査結果に基づき、①個人ー組織適合が職務態度変数と関連するのか、②どのような項目での適合がとくに職務態度変数と強く関連するかという点について解説します。

 参考文献:宮川祥子・伊藤大幸(2023)「日本の労働者における個人-組織適合と職務態度およびウェルビーイングの関連」産業・組織心理学会第38回大会発表論文集

3.研究内容

 本研究では、従業員が認知する個人–組織適合が、組織コミットメント、職務満足度、主観的幸福感、離職意図といった職務態度に対してどのような影響を与えるのかを実証的に検証しています。従来の研究では、個人–組織適合は、測定の簡易さや説明力の高さから、「組織と価値観が一致していると思う」といったような個人の主観的な適合感覚をそのまま指標化することがほとんどであり(e.g., Oh et al., 2014)、具体的な組織風土や文化の各側面での適合が職務態度にどれほどインパクトを持つのかについては、国内で十分に検証されてきませんでした。

 そこで本研究では、一部の研究 (Cable and Edwards, 2004) で用いられてきた、個人の価値観と所属組織の価値観の評定結果を基に、「差得点(絶対的ズレ)」を算出する手法を用いることで、個人の主観的適合評価に依存しない指標として、組織風土や文化の各側面の効果を検証しました。

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 本研究では、組織文化プロファイル(O’Reilly et al., 1991)を参考に、39項目からなる組織文化、価値観、規範意識などからなる尺度を作成し、どのような項目における適合が職務態度や離職意図に関わるのかを詳細に分析しました。こうしたアプローチを通じて、個人–組織適合がもたらす効果の大きさを精緻に捉えることができ、人事施策設計に対して実務的な示唆を提供することを目指しました。

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3.2 研究手法

  本研究は、日本国内の正規雇用者を対象に、個人–組織適合と職務態度との関連を検証することを目的として実施しました。調査はWeb調査会社を通じて行われ、性別と年代で日本全体の労働人口比と同等の回収比率になるように割り付けた全国の正規雇用者から有効回答596件を回収しました。対象者の職種や業種、企業規模は限定せず、多様な就業環境にある労働者の実態を反映しています。これにより、結果の一般化可能性を確保しました。

 個人–組織適合の測定では、回答者は、39項目から構成される特徴について自身の志向性と組織の特徴の双方を評価し、そこから適合指標を算出しました。職務態度としては、職務満足度、組織コミットメント、離職意図などについて回答を得ました。

 そして、分析では重回帰分析を用い、個人–組織適合と職務満足度、情緒的コミットメント、主観的幸福感、離職意図といった主要な職務態度変数との関連を検証しました。年齢、性別、職位、在籍年数などの統制変数をモデルに投入した上で、適合が各アウトカムを説明するかを検証しています。さらに、どの項目における適合が特に重要かを探るために、39項目ごとの適合指標を用いた回帰分析も実施し、人事施策の焦点を明確化する検討も行いました。

3.3 主な結果

 個人–組織適合は職務態度と関連するか?
 本研究ではまず、個人–組織適合が職務態度やウェルビーイングに与える影響を検証しました。分析の結果、個人–組織適合は、すべてのアウトカム変数(職務満足度、組織コミットメント、離職意図)に対して有意な関連を持つことが明らかとなりました。特に顕著だったのは離職意図との関係で、個人–組織適合の指標を入れることで、離職意図の23%を予測できるという結果が得られました。これは、一般的な人事データではなかなか捉えきれない離職リスクを、適合の“ズレ”という心理的要因から高精度に捉えられることを意味します。

 また、職務満足度と組織コミットメントについても、それぞれ16%、19%が個人–組織適合によって予測できることが確認されており、職場への満足度や愛着の高さにも、適合の良し悪しが強く関連していることがわかりました。具体的には、適合のズレが少ないほど、満足感やコミットメントが高く、離職意図は低くなるという傾向が示されました。

 これらの結果は、従業員の志向性と組織の特徴がどれだけ一致しているかを定量的に把握することで、コミットメントの向上や離職防止の精度を高められる可能性を示唆しています。採用や配置、定着支援の観点からも、「適合度の見える化」は今後の戦略人事に欠かせない要素となるでしょう。

 どの項目での適合が職務態度と関連するか?
 個人–組織適合の重要性が確認された上で、次に着目したのは「どのような項目における適合が、職務態度に特に強い影響を及ぼすのか」という点です。本研究では、39項目に及ぶ組織文化や価値観の要素ごとに、個人と組織の適合度を算出し、それぞれが職務態度をどの程度説明するかを分析しました。

 その結果、次の3つの領域における適合が職務態度に最も強く関連することが明らかとなりました。

  • 「挑戦的な雰囲気」
  • 「柔軟な働き方」
  • 「規範意識」

 たとえば、「挑戦的な雰囲気」に対する個人の志向と組織の特徴が一致している場合、組織コミットメントや職務満足感が高いという傾向が見られました。具体的には、経験を積める環境であるか、熱意を持って仕事に取り組めるかといった項目での適合の低さが望ましくない職務態度の結果と関連することがわかりました。

 同様に、「柔軟な働き方」における適合は、離職意図の低さや職務満足度の高さに関連していました。自律性やワークライフバランスへの期待が満たされることにより、こうした望ましい結果に繋がっている可能性が考えられました。

 また、「規範意識」での適合は、組織コミットメントや離職意図と有意に関連しました。特に、離職意図に対しては、個人の得点が組織の得点を上回っている場合と、組織の得点が個人の得点を上回っている場合のいずれでも離職意図が高くなることが示され、利益の追求と法令遵守のバランスがちょうど擦り合っている状態が重要だとわかりました。

4.実務適用

4.1 研究成果が企業に貢献するポイント

 本研究の成果は、「個人–組織適合」を可視化・活用することで、離職・コミットメント・人事配置といった複数の人事課題に対して具体的な解決の糸口を提供します。特に、適合度の「見える化」が実現されることで、主観に頼らない人材マネジメントの意思決定が可能になる点が最大の貢献です。

 たとえば、従来の離職リスクの察知やキャリア支援は、上司の印象やアンケートの感覚値に基づく対応が主流でした。しかし本研究の結果から、個人と組織のズレが、結果と一定の関連を示すことが明らかになりました。これにより、従業員が「どれくらい合っていないか」「どこでズレているか」を客観的に把握し、早期介入や配置見直しが可能になります。

 さらに、39の項目のうち、挑戦的な雰囲気、柔軟な働き方、規範意識といった側面での適合が特に重要であることも明確になりました。これらは多くの企業が制度設計で重視している領域でもあり、単なる制度の有無ではなく、その“文化的受け止められ方”が実際の職務態度や離職に強く影響することが、科学的に裏付けられたと言えます。

4.2 現場で実践する際の具体的な方法

本研究の知見を活用して現場で実践するための、3つのTipsをお伝えします。

① 採用・異動時に「適合診断」を活用する
 候補者・従業員に対し、自社で重視する組織文化や価値観など(例:挑戦志向・柔軟性・ルール遵守など)に関するチェックリストを用いて、事前に適合の度合いを診断します。異動や配属の判断においても、適合のズレを見える化することで、ミスマッチを未然に防止できます。

② 定期的な適合サーベイで「ズレ」のモニタリングする
 人事部門主導で、全社員または部門ごとに「個人」と「(個人からみた)組織」の評定を収集し、適合指標を定期的に算出することで、適合度の変化を可視化します。例えば、離職率が高い部署では、適合指標との突き合わせにより原因となる要因の特定ができる可能性があります。

③ 育成・エンゲージメント施策を「適合項目・側面単位」で設計する
 例えば、「挑戦的な雰囲気」の適合が低い部門では、内発的動機づけや裁量機会を増やすようなリーダーシップ強化や制度改革を検討できると考えられます。どの側面での適合にアプローチするかを明確に意識することで、施策の焦点が定まり、効果的な改善アクションに繋がるでしょう。

5.まとめ

 本研究は、個人–組織適合が職務満足感、組織コミットメント、離職意図といった職務態度に対して一定の関連をもつことを、全国の正規雇用者データに基づき実証的に示しました。特に、個人の志向と組織の特徴のズレから算出される知覚的な適合指標は、離職意図の予測において最大23%の分散を説明し、職務態度への実務的価値を裏付ける結果となりました。人事制度や福利厚生だけでは説明しきれない離職の背景に、「個人と組織のズレ」が存在する可能性が示されたと言えるでしょう。

 さらに、挑戦志向・柔軟性・規範意識といった特定の側面における適合が、特に職務態度を左右することも明らかになりました。これらの結果は、単に個人の志向性と組織の特徴が一致しているかどうかではなく、どの側面で一致しているかが極めて重要であることを示しています。人事施策としては、「当社らしい文化」を抽象的に語るだけではなく、自社が重視する領域と、そこに対する従業員の共感度・適合度を定期的にモニタリングすることが求められます。文化は測れる、そして調整できる。その視点こそが、職務態度を維持・向上させ離職防止に繋がるカギになるのです。

 今後、採用や配置だけでなく、エンゲージメント施策、1on1ミーティング、キャリア開発の設計にも「適合」という新たな軸を加えることで、より精緻で効果的な人材マネジメントが可能になるかもしれません。もし「従業員がなぜ定着しないのか」「なぜ組織がいまいちワークしないのか」といったことに悩まれているのであれば、まずは個人と組織のズレを“測ってみる”ことから始めてはいかがでしょうか。数値化された適合度は、直感的な“合う・合わない”を超えて、個人と組織の関係性を可視化し、行動可能な示唆をもたらしてくれるでしょう。

6. 引用文献

Cable, Daniel M., and Jeffrey R. Edwards. 2004. “Complementary and Supplementary Fit: A Theoretical and Empirical Integration.” The Journal of Applied Psychology 89 (5): 822–34.

Kristof, Amy L. 1996. “PERSON-ORGANIZATION FIE AN INTEGRATIVE REVIEW OF ITS CONCEPTUALIZATIONS, MEASUREMENT, AND IMPLICATIONS.”

宮川祥子・伊藤大幸(2023).「日本の労働者における個人-組織適合と職務態度およびウェルビーイングの関連」産業・組織心理学会第38回大会発表論文集

Oh, In Sue, Russell P. Guay, Kwanghyun Kim, Crystal M. Harold, Jong Hyun Lee, Chang Goo Heo, and Kang Hyun Shin. 2014. “Fit Happens Globally: A Meta-Analytic Comparison of the Relationships of Person-Environment Fit Dimensions with Work Attitudes and Performance across East Asia, Europe, and North America.” Personnel Psychology 67 (1): 99–152.

リクルートワークス研究所 (2025). 中途採用実態調査(2024年度上半期実績、2025年度見通し 正規社員)Retrieved 2025 年 5 月 10 日 From https://www.works-i.com/surveys/report/20250120_midcareer.html

Verquer, Michelle L., Terry A. Beehr, and Stephen H. Wagner. 2003. “A Meta-Analysis of Relations between Person–organization Fit and Work Attitudes.” Journal of Vocational Behavior 63 (3): 473–89.


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