なぜ人は「誰に相談するか」で心の開き方が変わるのか? エージェント時代のメンタルケアと見た目の科学(研究員:川北 輝さん)


川北 輝 (Teru Kawakita)
一般社団法人HR Buddy研究所 研究員
京都芸術大学 専任講師

臨床心理修士 (専門職)・修士 (知識科学)、公認心理師。感性のインフラをつくることを目的に、感性工学やテクノロジーを用いた心理支援の研究に従事。メディアアーティストとして人とテクノロジーの関係性を探究。

こんにちは、川北輝です。
人とテクノロジーの関係性を探究するヒューマン・コンピュータ・インタラクション (HCI) / ヒューマン・エージェント・インタラクション (HAI) や感性工学分野の研究をしています。

この記事では、2022年の論文、「カウンセラーアバタの外観とユーザの相談状況の違いが相談意欲に及ぼす影響の検討 (日本感性工学会論文誌)」の解説をしていきます。

1.はじめに 

私たちは日常生活のさまざまな場面で意思決定をしています。しかし、その背後では「あの商品はなんとなく良さそう」や「この人は話しやすそう」といった、言語化しにくい感覚も動いています。このような人間の主観的な印象や感情を扱う分野が感性工学です。

感性工学では、人が製品や環境、他者に対して抱く感性を分析し、それを広くデザインに活かしていきます。もともとは製品開発やデザインの分野で発展してきた学問です。例えば、「高級感のある車とはどんなデザインか?」といった問いをもとに、感性データを集め、統計的に分析し、開発に活用することができます。

現在では、その応用範囲は多岐に広がり、組織経営やヒューマンリソースマネジメント(HRM)にも深く関わるようになりました。例えば、このような経験はないでしょうか。

・面接で「この人は良さそう」と直感的に思った
・上司によって話しやすさが全然違う
・同じ制度でも、職場の雰囲気によって利用しやすさが変わる
・職場にペットロボットがいると仲間内のコミュニケーションが促進する

これらも、感性工学で扱う対象です。採用面接において「この人は信頼できそうだ」と感じる直感や、上司の見た目や振る舞いによって部下の心理的安全性が左右される現象も、感性の側面から捉えることができます。つまり、組織における人間関係や意思決定もまた、感性によって大きく規定されているのです。

この視点をさらに深堀りすると、現代社会における重要な問いが浮かび上がります。

『人が「相談したい」と感じる相手は、どのようにデザインできるのか?』

従来は親や友だち、学校の先生、職場の上司、カウンセラーなどに相談していたことを、今では身近なAIに相談できるようになりました。特に心理的な領域においては、AIチャットボットやアバターを用いた相談システムが注目されています。

私の研究分野ではCGのアバターやロボットなどを総称して「エージェント」と呼ぶので、以下はエージェントで統一します。

エージェントに相談できるシステムが求められるようになった背景の一つには、「相談したいのに、相談できない」という状況があります。対面のカウンセリングは心理的・経済的なハードルが高く、また身近な人にはかえって本音を言いづらいというジレンマが存在します。特にコロナ禍では対面でカウンセリングを受けることが難しい状況にあったため、相談システムの研究が喫緊の課題でした。

そこで、先行研究では、バーチャルカウンセリングルーム上に、プログラムされたカウンセリングエージェントを配置しました。その結果、バーチャルな部屋環境によって自己開示の意思が変化することやセンシティブな内容も語られることが明らかになりました (Kawakita, et al., 2021)。

また、人間のインタビュアーとコンピュータで統制されたエージェントを比較した場合、人は後者に自己開示をしやすいことが明らかになっています。(Lucas et al.,2014, Pickard, et al., 2016)。

では、その「話しやすさ」はどのように設計できるのでしょうか。

2.カウンセリングエージェントの見た目はどこまで重要なのか

本研究が注目したのは、「エージェントの見た目」と「相談者の悩み」です。

私たちは相手の服装や雰囲気から多くの情報を読み取っています。白衣を着ていれば専門家らしく見え、カジュアルな服装であれば親しみやすく感じます。このような印象形成は、意識的というよりむしろ無意識的に行われています。

つまり、見た目は単なる装飾ではなく、「その人がどのような役割を持つ存在か」を示す重要な手がかりなのです。では、エージェントにおいても同様のことが起こるのでしょうか。

本研究では、平均年齢が21.19歳の学生54名を対象に実験を行いました。

まず、実験で想定した相談状況 (相談者の悩み) が2種類あります。
・重い相談状況(中等度のうつ病の症状を想定した深刻なケース)
・軽い相談状況(友人と些細なことで喧嘩をしたなどの日常的なケース)

次に、エージェントの見た目が4パターンあります。
・人間型 × 白衣
・人間型 × カジュアル服
・ロボット型 × 白衣
・ロボット型 × カジュアル服

参加者はこれらを組み合わせた状況を体験し、「相談したいか」、「信頼できるか」、といった指標で評価を行いました。さらにアイトラッキング (視線計測装置) により、視線の動きも記録されています。

なお、アイトラッキングのデータは、感性工学などの研究分野で生理的 (客観的) 指標として用いられています。

3.結果①:悩みの程度によって「相談したい見た目」が変わる

最も明確な結果は、悩みの種類によって好まれるエージェントが変化するという点でした。重い相談状況の場合には白衣のエージェントが高く評価され、軽い相談状況の場合にはカジュアルな服装のエージェントが好まれました。

この結果は直感的でもあります。深刻な問題に対しては専門性や信頼性が求められ、日常的な悩みに対しては親しみやすさが重視されます。このような役割の期待が、エージェントにもそのまま適用されているのです。

4.結果②:人の見た目である必要はない

興味深いのは、ロボット型のエージェントに関する結果です。重い相談状況においては、白衣を着たロボットも高い評価を得ました。これは、「人間らしさ」よりも「役割らしさ」が優先されることを示唆しています。

一方で、カジュアルなロボットはあまり評価されませんでした。この結果は、見た目の要素が単独で機能するのではなく、組み合わせとして意味を持つことを示しています。

5.結果③:カウンセリングエージェントに対して人はどこを見ているのか

視線を分析した結果、人は主にエージェントの顔部分を注視していることが明らかになりました。一方で、服装はあまり直接的に見られていませんでした。それでも評価には影響を与えています。

これらの結果を感性工学の観点から見ると、非常に示唆的です。人は論理的に「この人に相談すべきだ」と判断するのみではなく、「なんとなく信頼できそう」、「話しやすそう」、「自分に合っていそう」といった感性的な判断によっても行動を決定しています。

よって、エージェントの設計は単なるビジュアルデザインのみを行えばよいのではなく、人の行動を誘発する「感性の設計」をいかに工夫するのかが大切です。特に生成AIが発展して人間と遜色ない会話ができるようになった現在では、見た目や動きのデザインだけではなく、その中身のデザインも重視されるようになります。

6.組織・HRMへの応用

この知見は、メタバースやAIに限らず、組織運営にも応用可能です。例えば…
・上司の服装や振る舞いが部下の相談行動に影響する
・採用担当者の印象が応募者の意思決定に影響する
・ペットロボットの見た目がコミュニケーションの促進に影響を及ぼす

といった現象にも結び付く可能性があります。

現実の人間関係は、基本的に選べないものです。しかし、エージェントは違います。見た目も性格も役割も、すべて設計可能です。

このとき重要になるのは、どのような他者性が人の心を開くのかという問いです。本研究は、その一端に対する実証的な答えを提示しています。

人は、思っている以上に「見た目」で世界を判断しています。そしてその判断は、私たちの行動を意識的・無意識的に左右しています。だからこそ、人の心に寄り添うエージェントを探究するうえでは、人の感性を理解し、設計する必要があります。

テクノロジーが発展するほど、人間の感性はますます重要になります。エージェントは現在の社会における新しい他者であり、人によっては欠かせない友だちやパートナーになり得ます。将来的には、あなたの職場で欠かせない存在になるかもしれません。

引用文献
Kawakita, T., Sasaki, T., & Ishihara, S. (2021). Remote virtual counseling and effects of embodied cues: Toward casual on-line counseling under COVID-19 situation. In International Conference on Applied Human Factors and Ergonomics, 952-960.
Lucas, G. M., Gratch, J., King, A., & Morency, L. P. (2014). It’s only a computer: Virtual humans increase willingness to disclose. Computers in Human Behavior, 37, 94-100.
Pickard, M. D., Roster, C. A., & Chen, Y. (2016). Revealing sensitive information in personal interviews: Is self-disclosure easier with humans or avatars and under what conditions?. Computers in Human Behavior, 65, 23-30.


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