相関から一歩進むための統計的因果探索― HRデータ分析で因果構造を考える(研究員:福井さん)


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※生成AIによるサマリー

一般社団法人HR Buddy研究所に研究員として所属しております福井と申します。普段は、大学の非常勤教員として、企業向けのデータ分析に関する指導や共同研究などに取り組んでいます。あわせて企業では、全社向けのDX教育の企画・実行や、HR領域を含むデータ分析業務に幅広く携わっています。

こうした実務と教育の双方に関わる中で、データサイエンスやAIを、HR領域のデータにどのように活用できるのかに関心を持っています。本記事では、その関心の一つである「統計的因果探索とその活用」について、できるだけ平易に紹介していきます。

はじめに

HR領域において、データ活用(ピープルアナリティクス)の重要性はもはや疑いようがありません。エンゲージメント調査、離職率の分析、採用候補者の適性検査など、私たちの周りには膨大なデータが溢れています。

しかし、データを分析して「相関関係」を見つけたものの、それをどう施策に落とし込むべきか悩んだ経験はないでしょうか。

「エンゲージメントが高い社員は、パフォーマンスも高い」 「残業時間が長い部署ほど、メンタルヘルス不調者が多い」…こうした相関関係に基づく分析結果は、一見すると正しい施策のヒントに見えます。しかし、ここには「因果の向き(どちらが原因でどちらが結果か)」という大きな問いが隠されています。

本記事では、この問いに答えるための手法「統計的因果探索」について解説し、その手法のHR領域での活用可能性について紹介します。

1. 手法の紹介、概要:相関と因果は、似て非なるもの

相関関係とは「二つの変数の間に関連性がある関係」のことです。つまり、一方が変化すれば他方も変化する、相互の関係を指します。それに対して、因果関係とは「原因とそれによって生じる結果との関係」のことで、一つの値を原因として、もう一つの値である結果が変化することを指します。

私たちが施策を考えるときに本当に欲しいのは「Aを動かしたらBが変わるか」という因果関係です。

たとえばエンゲージメントと離職率に相関があっても
(1) エンゲージメントが離職率を下げる
(2) 逆に離職リスクが高い職場でエンゲージメントが下がる
(3) どちらも別の要因(例:業務負荷など)の影響を受けている
——など、その解釈は多岐にわたります。

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ただ、現実の組織データでは「因果関係が既に分かっている」状況は多くありません。そこで登場するのが、統計的因果探索です。データから、変数間の“因果の矢印”を推定し、検証すべき仮説を提示してくれます。

2. 手法の簡単な説明:因果探索と因果推論は、役割が違う

データから因果を探る手法には、大きく分けて「因果探索」と「因果推論」の2つがあります。この2つは混同されがちですが、目的が大きく異なります。

因果探索とは
データを用いて変数間の因果関係、すなわち「因果の方向(矢印の向き)」を推定する手法です。「Aが原因でBが起きているのか? それともBが原因でAが起きているのか?」という、因果の構造そのものを見つけ出します。

因果推論とは
「因果の方向が既に分かっている」ことを前提として、その影響の大きさ(因果効果)を推定するものです。たとえば、「研修(施策)を実施したことで、パフォーマンスが何%向上したか」「離職率がどれだけ低下したのか」といった問いに答えるのが因果推論の役割です。

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しかしHRの実務に目を向けると、「研修がパフォーマンスを高める」という前提自体が、必ずしも自明とは限りません。実際には、もともと意欲や能力の高い社員が研修に参加しているだけなのか、あるいは職場環境や上司の支援といった別の要因が結果に影響しているのかといった点が不明なまま、効果検証が試みられることも少なくありません。

このように「因果推論を使って施策の効果を測ろうとしても、そもそもの因果関係が分からない」という状況において力を発揮するのが、因果探索です。手元にある観測データから、どの変数がどの変数に影響していそうかという“因果の矢印”を導き出すことで、検証すべき仮説を整える役割を果たします。

3. 手法を用いた研究例:エンゲージメントサーベイを“因果グラフ”で読み解く

近年では統計的因果探索の活用がHR領域でも見られるようになってきました。人工知能学会全国大会(JSAI 2025)では、エンゲージメントサーベイデータをジェンダー観点で因果探索した結果が報告されています。

Analysis of Employee Engagement Survey Data with a Gender Perspective using Causal Discovery | CiNii Research<p>This study has aimed to provide hypotheses for policcir.nii.ac.jp

この研究のポイントは、「男女別にデータを分け、質問項目間の因果構造(矢印)を推定して比較する」設計です。社内サーベイのデータを用いて、部署等の単位で集計された質問項目(計35項目)を観測変数として扱い、Layered LiNGAMと呼ばれる因果探索の手法を用いて因果グラフを推定しています。男女別に出力された因果グラフの共通点や相違点を比較・考察することで、有効な施策立案に繋がる仮説提案へ役立てています。

因果グラフから「心理的安全性」に影響する要因を抜き出し、男女で違いが見られる関係を具体的に示しています。たとえば推定結果として、「意思決定スピード」が女性の心理的安全性に負の影響が観察された一方、男性ではその因果関係が見られない、などが報告されています。また「裁量性」は男女ともに心理的安全性へ正の影響、「報酬」は女性では正・男性では負の影響が観察される、という差も述べられています。

これら結果を踏まえて、研究自体も、背景要因の追加検証や専門家との協働の必要性を明確にしています。 それでも、「相関」分析では見落とされていた因果関係を、次の分析・施策検討につながる仮説として提示できる点が、因果探索の実務価値であると考えています。

4. HR領域へのつながり

因果探索をHR実務に取り入れる最大のメリットは、「納得感と実効性の高い人事施策を設計できること」であると考えます。

これまでの人事施策は、担当者の経験則や他社事例、あるいは単純な相関分析に基づいて検討されることが多くありました。しかし、相関が確認されたからといって、その要因に手を加えれば必ず望ましい結果が得られるとは限りません。

因果探索は、こうした状況に対して、変数同士の関係を「因果の構造」として捉え直す視点を提供します。サーベイ項目や行動指標を、矢印で結ばれた関係として把握することで、「どの要因が起点となり、どのような経路で結果に影響していそうか」という全体像を描くことが可能になります。

因果探索は施策の正解を直接示す手法ではありませんが、「どこに介入する意味がありそうか」「どの仮説を検証すべきか」を整理し、データに基づいた共通認識をつくるための有効な思考ツールであると考えます。相関の先にある因果構造を見据えることが、人事施策を次の段階へ進める重要な手がかりになると考えます。

5. まとめ

本記事では、統計的因果探索(因果探索)について、その考え方とHR領域における可能性を紹介しました。因果探索は、因果関係が事前に分かっていない状況においても、観測データから変数間の因果構造を推定し、どの要因がどのように繋がっていそうかという仮説を提示してくれます。

実際に、エンゲージメントサーベイを対象として、因果探索の手法を用いることで、男女で異なる因果構造が示唆された研究事例も報告されています。このような分析は、「どの要因が起点となり得るのか」「どのような経路で結果に影響していそうか」を考えるための有用な手がかりを与えてくれます。

近年は、因果探索に関するライブラリや解説資料も充実し、実務の現場でも試行しやすい環境が整いつつあります。今後、HR領域においても、サーベイデータなどから、因果構造の仮説を描き、施策検討につなげていく取り組みが広がっていくことが期待されます。


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