研究者紹介
南 遥夏(Haruka Minami)
一般社団法人HR Buddy研究所 主任研究員
Scent代表/慶應義塾大学大学院修了

慶應義塾大学にて、認知行動科学・組織心理学を専攻し、ワーク・エンゲイジメントを中心に研究。現在は企業との共同研究、講演、コンサルティング、プロダクト開発まで幅広く手がける。理論と実践の両面から人と組織の関係性をプロデュースし、“はたらく“をデザインしている。
1. 意味のある仕事は、なぜ人を動かすのか?
誰よりも早く出社して、皆が気づかないような仕事にも黙々と取り組む人。頼まれたわけでもないのに、いつもチーム全体のために率先して動いている人。
「どうしてあの人は、そこまで頑張れるんだろう?」
報酬や制度だけでは説明がつかないような、強いエネルギーで仕事に向き合う人がいます。その原動力のひとつが、「自分の仕事には意味がある」という感覚なのではないでしょうか。自分の仕事が誰かの役に立っている。社会とつながっている。そんなふうに感じられることが、人の内側から自然と力を引き出します。
心理学の研究では、仕事に意味を感じることが、エンゲージメントの重要な要因であることが繰り返し示されています。Mayら(2004)は、仕事の意味づけが心理的な充足感を支え、没頭や活力といったエンゲージメントの感覚を高めると述べました。また、Stegerら(2012)は、仕事に意味を見出している人は、自身の役割をより価値あるものと捉え、日々の情動体験もよりポジティブであるとしています。さらに、Gallupの調査に基づくHarterら(2002)の研究では、エンゲージメントの高い従業員は、生産性・顧客満足・離職率といった指標においても一貫して良好な傾向を示すことが明らかになっています。「意味」とは、単なる主観的な満足感ではなく、組織の成果に直結する心理的資源なのです。
2. 仕事の「意味」はどこからやってくる?
多くの企業が「やりがいのある職場」や「意味のある仕事」を掲げていますが、それが社員一人ひとりに届いているとは限りません。ここで重要なのは、「意味」は一方的に“与える”ことができないという点です。意味は、本人が自ら“見出す”ものであり、組織や上司はそれを見出しやすくする土壌を整える役割を担っています。この「意味づけ(meaning-making)」は、個人的で内省的なプロセスであり、外側から過度にコントロールされることでむしろ損なわれてしまうこともあります。
したがって、会社や上司が担うべきは、「意味を伝えること」ではなく、「意味を発見しやすくする環境やきっかけをデザインすること」なのです。自分の価値観や経験とつながる形で意味を見出せたとき、人はより深く仕事に没頭し、自己の成長と業務における貢献が重なって感じられるようになります。
3. 会社にできること①:MVVを言語化する
意味を見出すには、まず“何に意味があるのか”の指針が必要です。その起点となるのが、会社の掲げるミッション・ビジョン・バリュー(MVV)です。
Carton(2018)は、リーダーの語るビジョンが「視覚的に想像できる具体性」を伴っているほど、組織メンバーがそこに意義や方向性を見出しやすくなることを示しました。抽象的な理念よりも、「顧客の変化した姿」「5年後の社会の風景」など、視覚的に描ける未来像が人の行動を動かすというのです。理念が壁に貼られていても、現場の行動や意思決定と結びついていなければ、それは“意味”として認識されません。MVVを意味として機能させるには、それが業務とどうつながっているのか、社員一人ひとりが言語化できる状態にすることが重要です。
4. 会社にできること②:意味が生まれる場をデザインする
Lips-Wiersma & Morris(2009)の研究は、仕事に意味を見出すプロセスにおいて、「職場でどんな言葉が交わされているか」「どう語られているか」が大きく影響すると指摘しました。意味とは内面的な営みである一方で、それが立ち現れるためには「語られる環境」が必要なのです。また、職場での雑談やインフォーマルな会話が、従業員の感情的なつながり・創造性・チーム意識にポジティブな影響を与えることを実証した研究もあります。意味は“共有される瞬間”によって補強されるのです。
こうした研究に基づけば、企業にできることは以下のような「意味の可視化と循環」の仕組みづくりです:

これらは単なる制度設計ではなく、「意味が生まれる瞬間をふやす」職場づくりの一環といえます。意味が言語化・可視化されることで、他者と共有され、対話を通じて深まっていく。こうした“循環”を意識した場づくりは、意味のある仕事を文化として根づかせるうえで極めて重要です。
5. 上司にできること:日常的な会話で意味づけを手助けする
Lips-Wiersma & Morris(2009)は、従業員が意味を見出すプロセスにおいて、直属の上司との「対話の質」が極めて大きな役割を果たすと指摘しています。何気ない日々の声かけや、たった一言のフィードバックが、仕事の価値を再認識する“きっかけ”になるのです。
たとえば、「〇〇さんが作ってくれた、あの資料のおかげで契約が決まったって営業部が言ってたよ。」この一言で「自分の仕事が誰かの役に立っている」と感じられれば、それは意味の原体験になります。
また、Deci & Ryan(1985)の自己決定理論によれば、人は「自律性・有能感・関係性」が満たされることで内発的に動機づけられます。上司がこうした心理的欲求を満たす関わりを意識することで、部下のエンゲージメントは大きく変わります。意味は、正解を与えるのではなく、問いかけによって共に見出すもの。そのために、上司には“言葉の解像度”と“共に考える姿勢”が求められます。
6. 本人にできること:ジョブクラフティングで意味を育てる
意味づけの主体は、やはり本人です。たとえ環境が整っていても、最終的に意味を見出すのは自分自身。そのための方法として有効なのが「ジョブクラフティング」です。
Wrzesniewski & Dutton(2001)は、人は自ら仕事の枠組みや捉え方を変えることで、仕事の意味や目的を再構成できると提唱しました。Timsら(2013)は、ジョブクラフティングがエンゲージメントや仕事満足、創造性といったアウトカムを高めることを縦断的に示しました。
ジョブクラフティングには、以下の3つがあります:

「これは誰の役に立つのか?」「自分にとってどんな意味があるのか?」そうした問いを自らに投げかけ、小さく再定義することが、意味を育む第一歩になります。たとえば、ある企業では新入社員がジョブクラフティングのワークを通じて「自分がなぜこの仕事を選んだのか」「どのような価値に貢献したいのか」を整理し、早期離職の低減につながった事例もあります。小さな問いから意味を再構築することは、キャリア初期の不安にも有効なのです。
7. 終わりに
意味は、誰かから与えられるものではなく、誰かと交わす問いの中で、ゆっくりと育まれていくものです。
あなたの組織では、どんな価値が語られていますか?
あなたの上司としての声かけは、部下の意味づけを支えていますか?
あなた自身は、いまの仕事にどんな意味を見出していますか?
引用文献
Carton, A. M. (2018). “I’m not mopping the floors, I’m putting a man on the moon”: How NASA leaders enhanced the meaningfulness of work by changing the meaning of work. Administrative Science Quarterly, 63(2), 323–369. https://doi.org/10.1177/0001839217713748
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic motivation and self-determination in human behavior. Plenum Press.
Harter, J. K., Schmidt, F. L., & Hayes, T. L. (2002). Business-unit-level relationship between employee satisfaction, employee engagement, and business outcomes: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 87(2), 268–279. https://doi.org/10.1037/0021-9010.87.2.268
Lips-Wiersma, M., & Morris, L. (2009). Discriminating between “meaningful work” and the “management of meaning.” Journal of Business Ethics, 88(3), 491–511. https://doi.org/10.1007/s10551-009-0118-9
May, D. R., Gilson, R. L., & Harter, L. M. (2004). The psychological conditions of meaningfulness, safety and availability and the engagement of the human spirit at work. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 77(1), 11–37. https://doi.org/10.1348/096317904322915892
Steger, M. F., Dik, B. J., & Duffy, R. D. (2012). Measuring meaningful work: The Work and Meaning Inventory (WAMI). Journal of Career Assessment, 20(3), 322–337. https://doi.org/10.1177/1069072711436160
Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2013). The impact of job crafting on job demands, job resources, and well-being. Journal of Occupational Health Psychology, 18(2), 230–240. https://doi.org/10.1037/a0032141
Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26(2), 179–201. https://doi.org/10.5465/amr.2001.4378011
