「何から着手し、どの順序で進めるか」をチームで合意するための思考支援技術:ISM法・Tag-ISM法の紹介(研究員:佐久間さん)


【著者プロフィール】
佐久間大
(山形大学 教育学部 専任講師 テニュアトラック)
専門領域:教育情報工学、学習デザイン

1.はじめに
教材開発や研修設計、業務改善がうまく進まない原因は、多くの場合「内容」そのものではありません。本当の原因は、「何から考え、どの順番で進めるのか」という思考の流れが、個人あるいは組織の中で共有されていないことにあります。本記事では、思考や改善プロセスを構造として可視化する技術であるISM法(Interpretive Structural Modeling)と、その応用であるTag-ISM法について、研究事例をもとに紹介します。

これらは、
・人材育成・研修設計/OJTプロセス設計/業務改善の順序整理/組織開発の設計図づくり
などに応用できる、思考の順番を合意形成しながら可視化する技術です。

2.ISM法を適用すべき課題・場面
教育や業務改善の現場では、次のような状況がよく起こります。

  • どこから着手するか意見が割れる
  • 分析の話と施策の話が混在する
  • 「まだ早い」「今すぐやるべき」が噛み合わない

こうした混乱の背景には、各人が把握している「構造」「認識の重要度」の違いがあります。この「認識のずれ」を可視化し、合意するための手法の一つが、複雑な要素関係を構造化するために開発された方法の一つが、ISM法(Interpretive Structural Modeling)です。都市計画のような社会の複雑な要素に対して、構造化する目的で用いられてきた技術の1つです。

2‐1.KJ法との関係
ISM法は、KJ法のようなアイデア整理法と同様に、複雑な要素関係を構造化する点で共通していますが、要素間の順序関係を数理的に整理する点に特徴があります。

KJ法とは、文化人類学者・川喜田二郎氏が考案した、付箋やカードを用いて大量の定性的な情報やアイデアをグループ化し、構造化して本質を見出す整理・発想手法です。

ブレーンストーミングなどで出た断片的な情報を「カード化」「グルーピング」「図解化」することで、複雑な問題の解決策や新たなアイデアを導き出します。大学の授業や、会社の研修でよく用いられていると思います。

具体的には、意見や情報をカードに書き出し、似たもの同士をまとめ、関係性を整理しながら構造化するという手順で、会議でも良く見かけるものです。ISM法はこの考え方を引き継ぎつつ、特に「どれがどれの前提か」という順序関係の整理に焦点を当てた方法といえます。

2‐2.ISM法の適用イメージ(ドラフトの例)
【仮想事例】
イメージを作るため、プロ野球ドラフトの評価を例に、ISM法の工程を見ていきましょう。
仮に、スカウトが、「選手のどこを優先的に評価していくべきか?」という会議を開いているとします。以下のように、選手のどこをどれよりも優先して評価すべきか話し合っているようです。

• 身体能力 → 技術    (身体能力が土台になって技術が伸びる)
• 技術 → 実績      (技術があるから試合で結果が出る)
• 実績 → 将来性     (結果があるから将来性が評価できる)
• 将来性 → 総合評価   (最終的な指名判断に直結)
• メンタル → 実績    (精神面がパフォーマンスに影響)
• チーム事情 → 総合評価 (ポジション事情などが最終判断に影響)

画像
図1 前提関係を示した隣接行列

【図1】は隣接行列で、「どれがどれの直接の前提か?」を整理したものです。図中の「1」は、「順序関係がある関係」を表します。会議でお話しして、皆で表に✓(直接的な関係がある=「1」)するわけです。 

画像
図2 直接・間接関係を含む可到達行列

【図2】は、図1の表を、論理積:ブール演算をかけること得られる「可到達行列」です。可到達行列には間接関係を含むという性質があります。図1は、直接的な関係(A→B)のみを表したものでしたが、図2は「A→B→Cなら、A→C も間接的な関係(飛び級的関係)がある」ことを、数理的に求め、「1」が増間接関係が計算によって追加されるため、「1」が増えた行列が得られます。これにより、要素間の直接・間接の関係を同時に把握できます。えて異常状態であることがわかります。

一言でいえば、簡単な直接+間接を含めて「最終的にどこまで繋がりが広がるか」を表しています。なお、ブール演算は、数学者ジョージ・ブールによって提案された論理演算で、電子回路や情報処理で広く用いられています。で,電子回路(スイッチ回路)の研究でよく使われています。

画像
図3 順序構造を示したISM構造チャート

【図3】 図2をグラフとして表したものです。これをISM構造チャートと呼びます。図2をグラフ表現しただけですが、「何が土台で、何が最終成果か」が一目で分かるようになります。今回のケースでは、身体能力やメンタル、チーム事情の3点を優先的に踏まえて選手を評価することが良くわかりますね。

2‐3.ISM法の適用イメージ(店舗改善)
今度は,HR/組織改善等で適用する場合のイメージをして参りましょう。ここでは、牛丼チェーンの改善プロジェクトを例にします。チームが挙げた工程は次の通りです。

  • 顧客分析、KPI設定、現場観察、原因整理、改善案作成、PoC、効果測定、展開

課題は、「どの順番で、どこを並行して進めるのか」をチームで合意することでした。

画像
図4 店舗改善プロセスを示した隣接行列

図4は、「AはBの前提か?」という判断を表にしたものです。

  • 縦:前工程(from)、横:後工程(to)、黒:前提関係あり、白:前提関係なし

この表は、チームのメンバーが1組ずつディスカッションして判断して作ったものですから、「縦(from)の工程が、横(to)の工程の前提か」という読み方をします。
たとえば、

  • from:顧客分析の結果を読む
  • to:ニーズ/不満を整理する

の位置が黒であれば、「顧客分析の結果を読むことが、ニーズ整理の前提である」と会議のメンバーが思っていることがわかります。

画像
図5 改善プロセスの影響関係を示した可到達行列

図5は、図1の隣接行列をブール演算し、直接・間接を含めて「影響がどこまで届くか」を示した可到達行列です。分かりやすいように、行と列を右側に「1(黒)」が式詰まるように並び替えています。

  • 黒:つながり(→)がある、白:つながり(→)がない

という意味でした。最も右の「再測定して次の課題へ」が、すべての要素から矢印→でつながっていることがわかります。そのため、最も最後(トップ)になることが読み取れます。読み取った結果をISM構造チャートに表すと、図6が得られます。

画像
図6 改善プロセスの順序構造を示したISM構造チャート

図6:ISM構造チャートを見ると、牛丼屋のチェーン店の改善には、まず「顧客分析の分析結果を読む」から始まり、ステップ12までの工程(プロセス)として合意できる材料を得ることがわかりました。
普段、なんとなく思っている工程を、このように可視化することで、メンバーが納得しながら業務を遂行できる支援・材料になるわけです。

3.発展研究:Tag-ISM法による教材構造の可視化
ここまで、ISM法を使って「思考や改善の順番」を可視化する方法を見てきました。では、この考え方を教材や研修内容の整理に応用すると、どのようなことができるのでしょうか。私たちの研究では、問題集の構造を自動的に把握するために、Tag-ISM法という手法を開発しました(佐久間ほか,2024「ISM法と学習要素タグを用いた問題項目の構造化法の開発」)。

従来、問題集の構造を把握するには、教師が一問一問を読み込み、
「どの問題が基礎で、どれが応用か」
「どの順番で扱うべきか」
を経験や勘をもとに判断していました。

しかし、1冊に数百問が収録されている問題集では、この作業は大きな負担になります。そこで本研究では、「問題の内容」ではなく、各問題に付けられた要素タグに注目しました。
たとえば、

  • 因数分解、展開、二次方程式

といったタグです。
次の図は、Tag-ISM法の基本的な考え方を示したものです。

画像

左側は、各問題がどのタグを持っているかを表した表です。右側は、2つの問題を比較したときの関係を示しています。
たとえば、

  • 問題i:tag2・tag3を含む
  • 問題j:tag3・tag4・tag5を含む

とします。

このとき、後の問題が、前の問題のタグをすべて含んでいる場合 → 後の段階に位置づく問題とみなすというルールを使います。つまり、「必要な要素が増えている問題ほど、後の段階にある」と考えるわけです。
この単純なルールを全問題に適用し、ISM法によって教材全体の順序構造を可視化しました。

市販の高校数学問題集を対象に分析したところ、

  • 695問
  • 398種類のタグ

から、人手では把握が難しい問題集全体の段階構造を、自動的に可視化できることが確認されました。問題間の段階構造を自動的に抽出することができました。特に「数と式」単元では、155問中77問(約50%)に明確な段階構造が確認されました。

教師からは、

  • 全体像を短時間で把握できる、授業計画を立てやすい

といった評価が得られています。この研究は教材分析を対象としたものですが、考え方そのものは、膨大な量や要素を含むプロジェクト改善や、マニュアルの整理・体系化、業務手順の構造化、スキル習得の段階設計などにも応用できます。

4.まとめ
ISM法やTag-ISM法は、「何から着手し、どの順序で進めるか」をチームで合意するための思考支援技術です。

構造を可視化することで、個人の思考が整理され、チームの議論が噛み合い、組織の改善が前に進むようになります。研修設計、OJT、業務改善、組織開発など様々な場面で活用できる手法といえるでしょう。

【参考文献】
・ Warfield, J. N.(1976)Societal Systems. John Wiley & Sons, New York, pp.204–284.

・ 佐藤隆博(1979)「ISM法による学習要素の階層的構造の決定」,日本教育工学雑誌』4巻1号,pp.9–16.
 https://doi.org/10.15077/jmet.4.1_9

・ 佐久間大・金高右京・後藤匠・長谷川勝久・佐藤隆博(2023)ISM法と学習要素タグを用いた問題項目の構造化法の開発」,日本教育工学会論文誌47巻Suppl.号,pp.197–200.
 https://doi.org/10.15077/jjet.S47100

・ 田中博晃(2013)KJ法クイックマニュアル,『方法論シグナル』3巻,pp.102–106. https://doi.org/10.69194/methodologysig.3.8


資料請求・面談希望・お問い合わせは、お問合せフォームからお送りください。

ご希望に応じて、サービス内容や研究成果の資料提供、個別相談に対応いたします。

企業・研究者の皆さまからのご連絡をお待ちしております。

資料請求・面談希望・お問い合わせは、お問合せフォームからお送りください。

ご希望に応じて、サービス内容や研究成果の資料提供、個別相談に対応いたします。

企業・研究者の皆さまからのご連絡をお待ちしております。